
保育園の入園式
医療的ケア児(以下:医ケア児)を取り巻く問題の1つが就園問題です。同じ医ケア児を育てるご家族から、就園問題について質問をたくさんいただきます。
その中でも特に多かった質問は「どうやって保育園に入ったの?」です。
そこで今回の記事では、医ケア児である息子が区立認可保育園に入園した経緯を、実例をもとに解説していきたいと思います。
医ケア児の息子を保育園に入園させるための5つの作戦

保育園の盆踊り大会
医ケア児の息子を保育園に入園させるための5つの作戦は、以下のとおりです。
- 娘が通っている保育園に息子を連れていく
- 区役所の入園相談係に行く
- 区長にメールする、もしくは直接会う
- 息子に関する資料をつくる
- 息子の往診時、保育園のスタッフに同席してもらう
息子の場合、通常の入園手続きでは100%入園できないと分かっていたので、5つの作戦を立てました。
作戦1:娘が通っている保育園に息子を連れていく
保育園に通わせるために、娘の通っている保育園に息子を連れていきました。
娘が通う保育園に息子を連れていく理由は、以下のとおりです。
- 園のスタッフに息子の顔を覚えてもらう
- 園長に息子を取り巻く環境について説明する
- 気管切開があっても普通に動けることを見てもらう
2016年の夏に現在の区に引っ越してきました。転園した娘が園生活に慣れてきた秋頃に、息子の近況や私の仕事のことを園長先生に話し始めたのです。
当時の園長先生はいつもニコニコされていたので、何でも話せた記憶があります。

園長先生には何を話したの?

- 息子の病気のこと
病名や気管切開をしていること、退院後の生活、話せること、声が出ること、成長発達には問題がないこと
- 私の仕事のこと
預かり先がなくて復帰できないことや看護師の仕事を続けたいこと
- 娘の気持ち
息子と一緒に保育園に行きたがってることや息子がなぜ保育園に行けないのか疑問に思っていること
園長先生とのお話では「入園させたい」という言葉は決して口には出しませんでした。入園させるさせないは区が決めることなので園に言っても仕方ないと考えていたからです。
とにかく園長先生には状況を伝え、園全体には息子のような動ける医療的ケア児がいるよ!とアピールすることが重要だったのです。
作戦2:区役所の入園相談係に行く
一応、区役所の入園相談係に行きました。なぜなら、私の住む区の保育園には『要配慮児枠』があり、息子が該当するのではないかと思ったからです。しかし「医療行為のある子どもは該当しません」とすぐに断られました。
結局『要配慮児枠』がどのような子どもを指すのかも分からずじまいだったのです。

息子は健常児、障がい児、どちらにも該当しない宙ぶらりんな子ども。
障がい児には当てはまらないので身体障がい児手帳や愛の手帳、利用できる施設もありません。
動ける医療的ケア児はどこで預かってもらえるのか、保育担当者に尋ねても回答は得られませんでした。
保育園に看護師がいるのなら医療行為はできますよね?と尋ねても、お役所の決まり文句『前例がありませんので…』の一点張りだったのです。
作戦3:区長にメールする、もしくは直接会う
結局のところ、制度を動かす権限があるのは区役所のトップなので、区長に会いに行くことにしました。

直談判ですね!

そうです!
これが一番手っ取り早いと思い、入園相談係で断られたその足で区長室に向かいました。
しかしアポイントを取っていなかったので、お会いできなかったのです。その代わりにメールであれば区長は毎日確認してるとのことだったため、その日のうちに私と息子の実情を切に訴えるメールを送ったのです。
数日後返信メールがあり、以下の内容が書かれていました。
- 状況はわかりました
- 受け入れる方向で進めていきます
半信半疑でしたが、少しホッとした記憶があります。
お礼とともに入園に向けて動いてくださいと念押しメールを送ったのです。
やはり区役所の各部署に言っても無駄なので、トップに言うことがポイントだと思います。
ただ、区や区長の方針にもよります。
私が住んでる区は、子育て施策の充実を掲げていたので前向きに進めてくれたのだと思います。
いずれにしても勇気を出して区長にコンタクトを取ってよかったです。
作戦4:息子に関する資料を作る
息子が安心して園生活を送れるように、息子に関する資料作りを始めました。
資料に盛り込んだ内容は、以下のとおりです。
- 病気(先天性声帯狭窄症)について
- 気管切開について
- 医療的ケアの内容と手順
- 日常生活上の注意点
- 緊急時の対応方法(気管カニューレが抜けた場合)
資料について「とても分かりやすかった」「マニュアル作りの参考になった」とご意見を頂きました。
作戦5:息子の往診時、保育園のスタッフに同席してもらう
資料だけでは伝わりにくいこともあると思ったので、息子の往診時に園長、保育士、看護師に自宅に来ていただきました。

往診時に保育園の方に同席してもらうと
どんなメリットがあるの?

- 医師と保育園、親とよりよい連携がとれる
保育園でトラブルがあった場合(気管カニューレが抜けた等々)に連携がとりやすくなります。また保育や看護をするうえで疑問があれば、気軽に聞くことも出来ます。
そのためにも往診時に医師と保育園の方が顔合わせをしておく必要があったのです。
- 自宅での息子の様子を見てもらえる
保育や看護をする上での注意点や配慮すべきことが分かるので、入園前に普段の息子の様子を見てもらうことが必要です。例えば、カニューレが引っかかりやすい動きや抜けやすい体勢を事前に知っておけば、事故を防ぐことができます。
そのため、普段の息子の活動状況を見てもらうことが大切です。 - 医療的ケアを実際を見てもらえる
吸引の方法や気管カニューレの挿入方法など、息子に必要な医療的ケアを間近で見てもらえるので、入園前に看護技術の振り返りや準備ができます。医師がいるので実際に吸引のポイントや気管カニューレの挿入時のコツを聞くことも出来ます。
入園前や入園後に、看護師が定期的に息子の気管カニューレの入れ替えを実施してくれたので、安心でした。
まとめ:5つの作戦は効果的
息子を保育園に入園させるために行った5つの作戦は、効果的でした。なぜなら、区長にメールを送ってから半年で息子は保育園に入園できたからです。とはいえ、お住まいの地域によって行政の対応はさまざまです。
前例のない医療的ケア児の入園には時間がかかります。まずは、子どもの現状を認知させることから始めなければいけません。
今回の記事を参考にしていただき、お子さんの就園問題が良い方向に進むことを願っています。
医療的ケア児のママ、パパ 毎日のケアお疲れさまです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
※医療的ケア児支援法案が成立しました。各都道府県の行政の皆様には、ぜひ早急に医療的ケア児の受け入れ態勢を整えていただきますよう、ここにお願い申し上げます。